大規模災害後の生活継続計画(LCP)における電力確保の重要性

マンションの災害対応力を向上させて資産価値を高めましょう

ここ数年地球温暖化に伴う気象変動の影響で大型台風の襲来や前線の長期停滞による豪雨災害の発生が相次いでいます。 特に2019年10月に上陸した台風19号では静岡、山梨、神奈川、埼玉で24時間雨量が700mm超を記録し、神奈川県の箱根では1000mmに達したとの報告もあります。この台風では東京、神奈川、千葉で瞬間最大風力が40mを超え、雨、風ともに記録史上最大となった地域が続出しました。

この様な記録的暴風雨の影響により広範囲かつ長期間にわたる停電が発生し、在宅による生活継続が成立しないという現実が突き付けられています。
近年では日常生活における電力への依存度が高まり、エレベーターもちろん上水も受水槽を廃止し、直圧ポンプ方式がとられるマンションも増えています。
このような状況から特に近年さらに増加している高齢の居住者にとっては電力の途絶は生命に関わる危機をもたらす懸念も指摘されています。

かつて電力をはじめとしたインフラの全面的途絶は大規模地震によってもたらされるケースが多かったですが近年では台風をはじめとした風水害でも発生することが確認されています。
また世界的に取り組みが強く求められている持続可能な開発目標(SDGs)の項目11でも「住み続けられるまちづくりを」が掲げられており、災害に強いインフラ整備とともにコミュニティの絆と個人・市民の安全強化を取り組み項目として挙げています。

以上のように外的環境が大きく変化していますが、社会基盤の整備はそれに追いついていないのが現状です。特に人口密集地域においては災害時緊急避難所の不足が指摘されており収容に限界があるといわれています。このためマンションの居住者に対しては「在宅避難」が求められており、被災後数日間は自らの努力で生活を継続しなければならないと考えられます。

最近では防災意識の高まりもあり非常用の飲料水とガスカセットコンロや非常時用トイレセット程度は一般に販売されており用意している家庭も多いと思われますが電力に至っては懐中電灯やラジオを備えている程度と考えられます。
これら一個人の備えには限界があり、共同体としてのマンション居住者全員が互いに協力し難局を乗り切る仕組みと準備が必要です。

ここでご覧いただくのは2018年1月29日に朝日新聞が特集したマンションの災害時特集です。

ここでわかる通り様々な備蓄品の用意ばかりでなくマンション全体としてのコミュニケーションに加え、地域のコミュニティとの意思疎通や連携の重要性も示されています。
ここでは触れられていませんが、事前に用意することが難しい電力についても最近では高性能な蓄電池の開発や電気自動車の活用が具体的に動き出してきました。蓄電池容量には限界もありますが、非常時に対応した使い方でせめて72時間は給水ポンプが動く、特定のエレベーターだけを間歇運転できる等の対策を検討しておいてもいいでしょう。

REPCO会員企業が取り組んでいる例

2019年の台風による千葉県での広範囲な大規模停電や川崎市での超高層マンションの停電等の状況を受け国土交通省と経済産業省は令和元年11月に「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」を発足させて電気関連諸室に取り付ける扉等の建具について浸水防止性能等のJIS化の検討も進め、翌2020年には「マンションストック長寿命化等モデル事業」に基づく補助制度も発足させました。この補助制度では先進的な取り組みと認められた事業に対し、工事費の1/3が補助されます。

LCP(生活継続計画)対策の取り組みで資産価値向上に成功した高経年マンションの事例では大型発電機の導入のほか飲料以外の水の確保に新たに井戸を設け、さらに強力な災害対応を行っています。また、電気関係諸室に防水堤や遮水扉を計画しているマンションもあります。

近年ITの普及など高度化が目覚ましい日常生活では公共インフラに強く依存しています。ところが、この公共インフラは前述したとおり極めて大きな自然災害に対して対応できない事例がここ数年発生しているのが現実です。

今後高経年マンションではそこに居住する高齢者をはじめとする災害弱者の更なる増加が見込まれ「安心、安全なマンションストック」のニーズは増すばかりです。大規模災害時における電力確保をはじめとした防災等の性能向上に取り組むことで資産としてのマンションの価値を高め、市場での評価向上を目指すことが資産価値の向上にも結び付きます。

昨今しきりに話題となっている「人生100年時代」に向け、住ストックの質向上は非常に重要な社会的課題でもあり、社会資本の一部であるマンションストックのレジリエンスにおいても災害時の電力確保はSDGs項目11.b「あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実行」にも合致しており、一層の取り組みが図られるべきと考えられます。