目的と効果

大規模災害等によりマンションの全住戸や共用設備が停電すると、上下階を移動するエレベータや全戸に給水するポンプ等が停止し、共用照明の停電等も生じて、生活が困難になる可能性があります。
このような事態において、共用部の照明やコンセントだけでも使用できれば、居住者の安心が図れます。さらに、エレベータや給水ポンプが作動すれば、マンションに留まることも可能になるかもしれません。
2011年の東日本大震災に伴う計画停電や台風等による停電は、マンション生活に大きな影響を与えました。対策には、災害時にマンションの最低限の電力を供給するための非常電源導入の検討が必要です。

工法・仕様

震災等の大規模災害によりインフラが破壊され、マンションへの電力供給が停止すると、生活上・防犯上の大きな問題になります。また、インターネット回線等の情報通信設備が途絶すると、情報が入らなくなり、安全・安心なマンション生活を維持することは困難です。非常時の停電対策として、非常電源の導入を検討すべきと考えます。

非常電源の選択

停電対策としての非常電源には、発電機、蓄電池、太陽光発電等があります。
太陽光発電は、天候による発電量の変化で安定しない上、夜間は発電ができません。蓄電池は、太陽光発電と連携させて運用することも考えられますが、高額で10年程度経過すると更新の必要も生じます。このため、実績、発電量、保守メンテナス、安定供給の点から、発電機が優れていると考えます。

非常電源の供給範囲

災害による停電時にマンションの共用部と全住戸に電力を供給することが最良ですが、発電機容量が過大になり、導入費用も億単位になるため、現実的ではありません。また、マンションへの電源供給は公平性が求められます。
このため、住戸への電源供給は行わず、マンション共用設備の中から電源を供給すべき設備を選定して、効果的に発電機電力を供給することが求められます。

発電機から電力供給する設備

①エレベーター

マンションのような高層建物は、上下階の移動が必要となるため、非常電源の供給対象とします。
なお、震災でエレベーターが地震管制により停止すると、メンテナンス会社の点検が終わらなければ、エレベーターを利用できない場合があります。

②給水ポンプ

給水は生活飲料水の確保やトイレの水洗いのために必要です。
ただし、災害により公共給排水管やマンション内の給排水管が破損を生じた場合は、水が利用できないことがあります。

③共用電灯版

共用電灯盤は、共用照明・コンセント等、マンションの共用部分に電気を供給しています。災害時にマンションの共用室等は、防災拠点としてマンション全体の安全を確保する役割や、負傷者、高齢者等を保護する場所にもなると思われますので、原則として共用電灯盤全回路に発電機からの電源供給を行います。

発電機設備の機器構成

発電機と受変電設備の間に切替盤を設けます。切替盤は停電を感知すると発電機を自動的に起動し、電源を切り替えて、必要負荷に電源を供給します。そして停電が止むと、自動的に通常電源に切り替わり、発電機を止めます。

発電機の運転時間

災害に伴い停電が生じた場合、3日間(72時間)程度の電源供給が必要になるかもしれません。しかし、発電機に搭載されている燃料タンクは、100%負荷で運転すると2~3時間程度しか運転できません。
発電機が100%の負荷で運転し続けることはありませんので、マンションの設備機器が動かなければ、発電機の運転時間は長くなります。とはいえ、3日間も運転することは難しいと思います。

このような場合、大型の燃料タンクを別に設置して運転時間を長くすることができます。ただし、発電機燃料の重油・軽油は引火しやすい危険物であるため、法令で制限があり、燃料タンク量は少量危険物未満(重油では2000L未満、軽油では1000L未満)とすることがマンション管理運用上は有効です。そのため、3日間72時間の連続運転は厳しいでしょう。運転方法を管理組合で検討して、その起動・停止等の運用規則を定めることが必要と思います。

燃料タンク(重油1950L)

ポイント:発電機導入検討事例

①中規模マンション例 (10階建約80戸)

給水方式を直結増圧給水に変更して受水槽を撤去しましたが、災害による給水停止の懸念から、発電機で給水ポンプ電源の供給を図った計画です。

  • 発電機負荷: 給水ポンプ(5.5kW)
  • 発電機仕様: 25kVA
  • 使用燃料 : 2号軽油 
  • 燃料タンク(発電機搭載): 30L
  • 導入費用 : 約500万円

②大規模マンション例 (15階建約300戸)

震災や洪水等の災害による停電時に、発電機から電源供給を行う計画です。
共用部の動力負荷はエレベータ1台と給水ポンプ、共用部の電灯負荷は管理室・集会室(震災対策本部想定)として想定しました。

  • 発電機負荷: (動力負荷) エレベータ1基:5.5kW
        給水ポンプ1基:7.5kW×2(同時)
      (電灯負荷) 共用電灯盤60kVA
  • 発電機仕様: 175kVA
  • 使用燃料 : A重油 別置1950L燃料タンク
  • 導入費用 : 約3000万円