目的と効果

大規模修繕工事を成功させ、建物を長持ちさせるためには、コンサルタントや工事会社などの外部の専門家に任せっぱなしにせず、管理組合が大規模修繕工事に主体的に関わることが大切です。

普段からの情報整備-1(図書・資料の整備)

まず、普段から整備しておくべき資料について説明します。これらは、管理組合が工事会社や設計会社などに提供すべき情報です。

竣工図 「竣工図」は、設計変更された箇所などが修正され、竣工時点の建物が正確に表された図面です。
ここで重要なのは、「構造図」「設備図」など、すべての図面が揃っていることです。
竣工図は、大規模修繕工事を始めとした維持保全をおこなう上で最も重要な情報の一つです。
その保管場所や不揃い・傷みがないかを確認し、必要に応じて修理や複写、電子データ化により消失を防ぐ対策を講じて下さい。
工事履歴 「工事履歴」は、過去におこなわれた共用部分の補修や改修の記録です。工事の範囲や仕様が読み取れるよう、見積書や完了報告書などとともに保管しておいて下さい。
各種の報告書 「各種の報告書」とは、特定建築物定期調査をはじめとした法定の調査・検査、管理会社などからの点検報告書や建物調査報告書などです。

普段からの情報整備-2(建物の問題点の把握)

建物の問題点・課題を洗い出しておいて下さい。具体例として、以下が挙げられます。

  • 現在継続中の不具合、過去の不具合
  • クレーム
  • 気になっている点
  • 管理会社からの指摘、報告事項
  • 法定点検による指摘事項、行政からの指導

ここで「管理会社からの指摘、報告事項」とは、たとえば事故報告や管理会社の自主点検に基づく指摘や提案などです。また、「定期点検による指摘事項」は、特定建築物定期調査などで「要是正」として挙げられた防災上の問題点などです。

普段からの情報整備-3(アンケート調査)

理事や修繕委員、管理会社が把握していない問題点を明らかにするためには、「アンケート調査」が有効です。広く居住者の声を集めれば、個人の気づきを管理組合や外部の専門家との共通認識にすることができます。

特に過去に漏水歴があれば、必要があれば当事者からのヒアリングもおこない、漏水の場所や状況を明らかにしておきます。

アンケート調査票の例

大規模修繕工事の準備

【組織づくり】

大規模修繕工事は、準備から実施まで2-3年を要することもあります。修繕委員会のような専門の委員会を設置すれば、理事が毎年のように交代する理事会とは異なり、継続的な対応がおこないやすくなります。
次は、外部の専門家(パートナー)を組織に加えるのかどうかを検討します。パートナーを採用する場合は、

  • 建物診断の実施とそれを踏まえて工事範囲、修繕・改修案の提案、予算の算出

等を依頼することが一般的です。
さらに、こうしたハード面だけでなく、理事会や修繕委員会が居住者に説明する際の協力など、合意形成に果たす役割も大きいと言えます。
外部のパートナーの例としては、施工会社、設計事務所、管理会社などが挙げられます。どこをパートナーにするかは、

  • 設計者と工事会社を分離するのかどうか
  • 工事が仕様通りにおこなわれているかを管理組合に代わってチェックさせるのか

によっても変わりますから、十分に検討して下さい。

【工事の企画・設計】

修繕・改修仕様案をつくり、その予算案を検討します。工事範囲やグレード、保証内容などを比較検討して案を固めます。
次に、工事会社への支払い条件、保証内容、アフター点検の時期・内容を打ち合せます。

【工事会社の選定方法】

大規模修繕の工事会社選定方法は、一次:書類審査及び見積り金額比較、二次:ヒアリングという2段階選考方式とすることが一般的です。
工事見積りへの参加依頼、現場説明会(図面などの手渡し)、質疑応答をおこない、審査書類や工事見積りの提出を求めます。

【工事会社選定のポイント】

工事見積りは、その金額だけでなく、次の事項にも着目します。

  • 安すぎるもの、極端な値引きはされていないか
  • 工事項目間のバランスはどうか
  • 仕様を理解しているか。勘違いはないか

その他に

  • 豊富な実績があるか
  • 総合的な技術力があるか
  • アフター対応が整備されているか
  • 経営内容はどうか

などを確認し、判断をおこないます。

【マナーも工事会社選定の判断要素】

工事会社選びで重要なのは、工事費・技術力・安定性だけではありません。マナーを重視している会社・現場監督かどうかも検討して下さい。よいマナーは工事の進行を円滑にし、理事会・修繕委員会や居住者の負担を軽減させます。

工事会社選定のヒアリングでは、ぜひマナーについてどのように考えているかを質問して下さい。

マナーの善し悪しは、優秀な現場監督の物差しとなるものです。安全や品質が重要なのは当たり前で、マナーにまで気配りできる監督なら、住民の気持ちを理解し、工事全般の細部まで気を使ってくれるはずです。

工事計画

工事会社が決まったら、工事の進め方について協議します。

  • 現場事務所、作業員詰所、便所等の設置場所
  • 各種安全対策
  • 搬出入のルート、時間帯
  • 防犯対策(センサー、ライト、補助錠)
  • 騒音対策

など、住みながらおこなう工事であることを十分に踏まえた計画とします。

工事中の技術的なチェックポイント

工事請負契約、住民説明会を経て、いよいよ工事開始です。工事中に管理組合にも積極的に関わっていただきたい技術的なポイントを述べます。

【足場上からの外壁全面調査】

工事会社から、なるべく早期に「調査結果(劣化数量の報告)」や「増減見積書」を提出してもらうようにします。当初の予算を上回る場合には、そのまま補修を進めるのか、危険性が少ない部位や足場がなくとも補修できる部位などの補修を取り止めて予算に収めるのか、十分に協議して下さい。

足場架け後の全面調査の状況

【外壁タイル張りの浮き】

工事会社が部分的にタイルを剥がすなどして、タイル浮きがどの層・深さで発生しているかの調査をおこなっていることを確認して下さい。また、試験施工などによって、仕様書でうたわれている浮きの補修工法が問題なく適用できるかの検証がしていることを確めて下さい。

試験施工

【外壁塗装の施工】

仕様書通りの塗装具、塗装回数で施工されていることを管理組合自身の目でしっかり確認して下さい。塗装用のローラーの違いだけで、材料の厚みが大きく変わってきます。

【鉄部塗装の施工】

塗装で鉄面の保護をおこないますから、膜厚の確保が重要です。特に劣化した塗膜を剥がした部分の処理がポイントです。塗膜を剥がした境界部分は、そのままでは角が立っていて、塗装に厚みを付けることができません。必ず、サンドペーパーなどで引っ掛かりを感じない程度までなめらかにしなければなりません。

塗装を剥がした箇所の段差

【漏水箇所が解決したかの確認】

足場のある間に必ず漏水補修の効果を検証することが必要です。工事会社が散水試験などにより漏水が解消したことを検証したか、必ず確認して下さい。十分に確認しないまま足場を撤去してしまうと、再補修に多くの時間や費用を要することになります。

止水工事後の散水試験による確認

工事を円滑に進めるために

工事を円滑に進めるためには、住民マナーも大切です。居住者の皆様に守っていただきたい代表的な事項は以下です。

  • バルコニーの片付け,自転車の移動,在宅などの工事への協力
  • 禁止事項の遵守 (特に、お子様が工事場所で遊ばないように)
  • 意見・クレームは直接、作業員に言わないように。管理組合で決めた方法に従って下さい。

工事によっては、専有部や、バルコニーなどの専用使用部への立ち入りが必要となります。1戸でも協力が得られないと、共用部全体の工事に支障をきたす場合があります。例えば、排水管の更新工事であれば、上下の住戸とも工事ができなくなってしまいます。

また、住戸の玄関扉の塗装のように、在宅が必要な工事もあります。扉をあけて、枠や小口の部分も塗装しなければならないからです。

大規模修繕工事を成功させるには

大規模修繕工事は、約10年に1度の大事業です。そこでは、居住者の理解と協力を得ること:合意形成が最も重要です。これまで述べてきたことを含めて、ポイントを列記します。

  • 普段からの資料・情報の整備
  • 修繕専門員会などの組織づくり、役員・委員の意思統一
  • 居住者への広報活動
  • 居住者全員の参加意識を高めること
  • 透明性の確保
  • 資金負担軽減の工夫

管理組合が主体的に工事に参画することが、大規模修繕工事を成功させ、結果的にマンションを長持ちさせることに資すると考えられます。