目的と効果

外装仕上材は経年で劣化が進みます。外壁の塗装の際には、その既存塗膜の劣化状態を的確に把握しておかないと、それに見合う下地処理及び塗装を行うことができず、結果として早期の不具合を招くことがあります。その不具合回避のため、外壁の劣化症状と不具合事象について理解を深めて、適切な改修工法を選択できるようにしておくことが必要です。

劣化現象

塗膜の劣化現象の種類とその程度の把握は、上述の通り非常に重要となります。
なお、塗膜の劣化とは、劣化外力により塗膜に期待される本来の機能が失われる現象と定義されており、大まかには以下に分類されます。

  • 塗膜表面の劣化現象 : 汚れ、変退色、光沢低下、白亜化、摩耗
  • 塗膜の内部の劣化現象 : 膨れ(浮き)、割れ、剥がれ
  • 下地に起因する劣化現象 : ひび割れ(クラック)、漏水、腐食、腐朽、断面欠損、エフロレッセンス、 さび汚れ等

(塗膜表面の劣化現象;例)

チョーキング(白亜化)
摩耗
膨れ(浮き)
割れ(塗膜のひび割れ)

(下地に起因する劣化現象;例)

ひび割れ(クラック)
エフロレッセンス(白華)

劣化調査とは

調査は、外壁の改修要否を判断するため、改修対象となる建築物に関する資料を整備し、劣化現象の種類やその程度を評価し、更に劣化診断は劣化原因を推定する目的で実施します。
原則として、調査は「事前調査」と「詳細調査」という流れで実施します。

  • 事前調査:主として既存の書類や記録に基づいた外壁の各部位などに対する調査
  • 詳細調査:主として改修計画を作成するために現地で実施する調査

専門会社にて劣化調査は進められますが、改修設計を行う際には、外壁各種材料の石綿(アスベスト)含有調査が必要であり、詳細調査時に一部部位によってはサンプリングして分析追跡を行いますので、別途予算計上が必要です。

調査項目

事前調査では、建築物情報を事前に調達しておくことが必要です。
詳細調査では、その事前調査情報をもとに、劣化の種類と程度の評価を行うと同時に、その劣化現象が、上記の通り塗膜表面、塗膜内部、そして下地に起因する劣化現象であるのかを適宜見極めて、実際の下地処理の実施範囲を明確にするための範囲と数量の把握を行っておくことが重要となります。

(事前調査)

  • ①建築物の名称、所在地、用途
  • ②構造、規模
  • ③設計者、工事監理者、施工者
  • ④設計図書(平面図、立面図)
  • ⑤仕上げと下地の仕様
  • ⑥竣工年月
  • ⑦調査対象
  • ⑧劣化現象とその確認時期
  • ⑨改修履歴、保全記録
  • ⑩周辺地域や環境、使用の条件、景観条例

特に事前調査の段階では④、⑤、⑨、⑩が重要で、改修履歴、保全記録については調査会社に情報提供しておくと、精度の高い詳細調査に臨むことができます。

(詳細調査)

  • ①調査範囲
  • ②調査項目(劣化の種類の評価、劣化の範囲と数量の把握)
  • ③調査方法の決定(破壊調査等を含む)
    • 既存塗膜の付着力の確認
    • 鉄筋コンクリートの中性化深度の確認(適宜)
    • 石綿含有建材、塗材等の確認とサンプリング片の分析調査(適宜)
  • ④破壊調査などを行った場合の補修方法
  • ⑤その他改修設計に必要な事項

調査方法

詳細調査は、調査のレベルに応じて1次診断、2次診断、3次診断等に区分されている場合がありますが、調査のレベルに応じて具体的な調査方法と劣化程度の判断基準を整備しておくことが重要となります。

  • 1次診断:目視観察・打診・指触調査 
  • 2次診断:標準劣化パターン写真用いた劣化デグリー評価 (劣化程度評価)
      比較的簡易な器具による非破壊調査
  • 3次診断:高度な危機による測定・試験・破壊調査

なお、様々な劣化現象の種類がありますが、「既存塗膜の強度低下」、そして「鉄筋コンクリート下地の中性化深度」については、1次診断レベルの目視・打診・指触だけでは判別できません。
そのため、この項目については破壊調査を行う必要があります。

(付着力試験の実施状況)

(中性化深度測定の実施状況)

ポイント

既存塗膜の表面側の劣化現象は、塗膜が連続性を保っている限り、下地保護機能は維持している状態と言えます。ただし、表層側から劣化が始まっているため、外壁塗装時期が近づいてきたサインともいえる現象です。
下地に起因する劣化現象については、外壁塗装前にその箇所の下地補修が行われますので、調査時に範囲や数量を的確に拾っておくことが必要です。
外壁の既存塗膜(仕上塗材)には、ある一定時期、石綿が含有していた時期があります。通常の静置・暴露条件においてそれらが粉塵として舞うことはなく、厚生労働省のマニュアルに従って工事を行えば、基本的に石綿単体繊維が舞うことはほとんどありません。ただし、厚労省令の「石綿障害予防規則」では、石綿の含有有無の特定を事前にしておくことを求めているため、既存塗膜片をサンプリングし、分析機関にて定量分析を行う必要があります。