目的

高経年改修では、様々な課題に直面していきます。分譲年代別の仕様が異なることに着目し、時代背景と共に概ね10年毎にマンションの変遷を整理しています。個々のマンションの仕様やここまでの改修経過により、工事の優先順位は変わってきますが、個々のマンションにおいてベストな改修の選択に役立てていただければ幸いです。

改修項目(分譲年代別の仕様と改修仕様の整理について)

分譲年代別の典型的な仕様とその改修仕様の課題やキーワードを以下の表に記載しました。

1960年代 1970年代 1980年代 1990年代
社会
法制度
事件・
マンション
社会背景
法整備状況
社会(事件)
所得倍増論
区分所有法
容積地区制度
列島改造論
金融公庫利用へ
日照権 日影規制
バブル
新耐震
旧省エネ
バブル崩壊
新省エネ
外壁落下事故
マンション状況
キーワード
低層
団地族ニュータウン
民間・管理会社の参入
団塊世代の購入
ワンルーム
高層大規模→多様化
都心回帰・設備高級化
少人数向け住戸供給
大規模修繕
に関わる
仕様の分析
外壁塗装仕様 セメントリシン
(スタッコ、吹付)
樹脂リシン
複層吹付材
合成樹脂
弾性仕上げ塗材
シリコン・フッ素登場
防湿性仕上げ塗装
防水形外装薄塗材
微弾性フィラー
弱溶剤系エナメル
コーキング仕様 油性コーキング シリコン・ポリウレタンの登場 シリコン・ウレタン普及期 変成シリコン普及期
イソシアネート硬化型
屋上防水仕様 アスファルト防水
・熱工法主流
・保護押え仕様が多い
防水初期
同左 露出仕様も増加
密着と絶縁が存在
屋上外断熱(厚20mm)
シート防水
断熱仕様が増加
改質アスファルト採用
通気層付シート
複合防水の登場
高耐久長寿命登場
トーチ工法断熱標準化
立上り部乾式パネル
シート機械固定工法
大規模修繕
工事の変遷
大規模修繕の
状況
大規模修繕の観点なし 初期 高圧洗浄なし 高圧洗浄+補修開始
改修足場の状況 枠組足場 くさび足場 ゴンドラ 移動昇降足場
構造関係 構造 旧耐震(II期)
建築基準法
旧耐震(III期)
帯筋規定 1970年
新耐震へ 1981年 中頃 免震
ダウンスラブ
コンクリート 塩化物 総量規制
給排水管
設備
配管のイメージ
通気管のイメージ
階下配管 階下配管 階下→階上へ
通期縦管 2管式
ダウンスラブ 樹脂化
伸長通気方式へ
給水 亜鉛メッキ鋼管 塩化ライニング鋼管 管端コア(更新要) 管端防食継手・樹脂化
給水方式 受水槽・高架水槽 77年6面点検 受水槽 地上化 直結増圧式増加
排水管 鋳鉄管 鋼製 SGP 鋼管 アルファ鋼管 (食洗器対応)HTVP
建具関連 建具仕様(サッシ) スチール製普及
アルミ製KJ部品認定
アルミ製
78アルミ製 BL認定
アルミ製普及
インナーサッシ登場
高気密化
大型サッシ
建具仕様
(玄関ドア)
プレスドア
(KJ部品認定)
フラッシュドア
(KJ部品認定)
同左(BL認定)
耐震ドア
気密性UP
セキュリティ対応
共用部分
改修キーワード・イメージ
初期・配管(共用部)
大規模な改修が必要
高齢化・建替議論→建替
黎明期・ビンテージ
階下配管 旧耐震
建替or修繕議論→修繕
階上配管へ、新耐震
サッシ・建具・配管の更新時期と重なる
ダウンスラブ
配管樹脂化が進む
タイル対応へ 免震初期

分譲時の仕様による工種別の指標化について

マンションの耐久性等の観点でのランク化

分譲時の仕様を分析し、色々な観点で、長期優良住宅化リフォーム事業や住宅性能表示制度を、参考に、以下の5ランクの水準で評価しました。

ランク1 初期段階のレベル
ランク2 課題が存在:改善・改修が必要
ランク3 1世代対応:一般的なレベル
ランク4 2世代対応:評価基準レベル
ランク5 3世代対応:増改築長期優良認定レベル

※事業主により仕様が異なる例もありますので、各物件の設計仕様を確認することが重要です。

高経年化改修の進め方(優先順位)

年代モデルを元に、同年代のマンションとの「相対比較」、「劣る部分の仕様確認」「課題確認」を行うことにより、各工種で、次の対応を選択する。

維持・改修の3つの選択肢
①今回は現状のまま(施工しない) ②維持修繕する(不具合を直す) ③改修する(性能向上)

主な工種の課題確認

耐震性 旧耐震時代が低い(60・70年代)
劣化・防水性 年代別にランクが低くなる
タイル 2000年代までは対策不足が多い
サッシ 1980年代までは更新を視野に
給排水 1980年代まで更新が課題
省エネ 明確に年代差がある。
設備 1980年代までは、仕様が低い

ポイント (各年代の共用部分修繕への課題)

1960年代:分譲マンションが発祥した年代(建替か改修かの選択)

様々な工種で改修が必要、高齢化とともに建替え議論となり、建替えするケースも増えています。

1970年代:高度経済成長で分譲が伸びた時代(旧耐震・階下配管の課題)

耐震性の確保が一番の課題です。建て替えよりも改修議論が中心となることが多いです。
配管が階下にあるケースが多く、更新の実現が難しくなっています。

1980年代:新耐震・階上配管の普及(配管・サッシなどの更新時期)

耐震性に問題がないため、改修での長寿命化を目指すケースが大半になります。
一方で、サッシ・配管などが更新時期を迎えており、これらの実施の実現が求められます。

1990年代:バブル期を迎え、仕様が多様化(新たな課題確認)

大規模修繕以外の改修の時期に差し掛かる時代。
多様化した仕様を正確に把握しながら、改修工事を実現する必要があります。

改修事例 (配管更新・サッシ改修など)

階下配管の改修

  • 1970年代の階下配管
  • 階下天井が共用部分の工事
  • 合意形成が重要

排水配管の更新

  • 1980年代の金属管改修
  • 鋼管を不燃樹脂管へ
  • 樹脂化により腐朽防止

サッシ改修

  • 1990年代のサッシ更新
  • カバー工法:室内側で短時間工事
  • メンテ+省エネ性能の向上

対象となる部位と年代ごとの考え方

①耐震補強工事

2017年改訂による再診断の薦め

耐震診断について、2017年に耐震診断改訂版にて、基準が変更緩和しています。 再検討により耐震補強工事が可能となった事例も多く。再診断もお薦めします。

②配管工事

更新工事の実施・階下配管の問題・全個所の更新の実施

高経年マンションでは、更生工事の段階から大規模な更新工事へ移行します。
階下に配管がある場合には、配管が共用部分扱いのため、専有部分ですが管理組合工事として検討が必要となります。
給水・排水・通気管の全ての金属系配管は、更新の実施が必要になります。その際、部分的に既存配管部分を残さない工事計画が重要です。

③防水工事

年代ごとに仕様が変化

高経年の防水改修は、重ね葺きができるか下地の確認が必要で、全剥離となるケースもあります。
改修の際には、高経年は省エネ性能が劣るため、同時に断熱施工をすることをお薦めします。

④塗装工事

高経年では、全剥離の検討が必要

高経年マンションでは、中性化が進んできておりますので、それを保護する塗装・コーキングも重要です。
1980年代までは下地との付着が低く、新規塗膜が旧塗膜を引っ張るため、全剥離となることがあります。

⑤建具工事

更新時期の到来、改修による効果の検討

1980年代までは、サッシ性能が基本的に劣っており、カバー工法などの更新工法が必要です。
これらの改修工事は、補助金制度も多く存在しますので、検討の際に行政との確認をお勧めします。
1990年代は、サッシ性能は高いですが、断熱性能に劣りますので、その部分の改修が必要です。

⑥電気・ガス工事

高経年マンションでは、容量問題の存在

ガスは、1980年代の半ばまで、ガス容量が低く、給湯器などの容量を大きくできないケースがあります。
電気も、高経年マンションでは、各戸の電気容量の小さいケースが多く、改修の検討対象となります。