目的と効果

地球温暖化に伴い海水温が上がり、大型台風、低気圧等が発生することにより、洪水や冠水の被害が増えています。これに伴い、河川の堤防等も土木の対策が困難になってきています。
2019年の"台風15号・19号"、2020年に熊本や山形で甚大な被害を及ぼした"令和2年7月豪雨"等、毎年のように豪雨による災害が生じています。マンションにおいても、冠水対策が求められています。

工法・仕様

建物自体が建築基準法に認可された既存マンションでは、高い擁壁で敷地周囲を囲むことや、マンション自体の地盤を高くする、電気室・ポンプ室等の機械室を上階に移動する等の対策はできないと思われます。
このため、河川の堤防決壊によりハザードマップ上で2m~5m冠水するとされている場合は、マンションの1階住戸が水没するだけでなく、電気室・ポンプ室等も水没して全ての設備が停止して対応ができなくなる恐れがあります。

冠水対策の基本方針

既存のマンションでは、以下の5つを基本方針として冠水対策を考慮すべきと考えます。

  1. 内水氾濫を原則として、冠水水位1m程度に対応できる対策を施す。
  2. エントランス扉、電気室・ポンプ室等の扉の前等に「防水板」を設けて水の浸入を防ぐ。
  3. 電気室周り、床下部分の配管配線の貫通穴を止水材で塞ぎ、水の浸入を防ぐ。
  4. 雨水排水管に逆流防止弁等を設けて、雨水等の水の逆流を防ぐ。
  5. 外水氾濫に対しては、敷地周囲を1m程度の擁壁で囲み、水の浸入を防ぐ。

ポイント

①内水氾濫を原則として、冠水水位1m程度に対応できる対策を施す

ハザードマップでは、3m~5mの冠水地域の表示をされている地域があります。この3m~5mの冠水は、河川の氾濫に起因することが多いと言えます。その場合、マンションでは1階及び2階住戸までが浸水して、機械室等も冠水し、さらには地域一帯の住宅・インフラ等も機能しなくなると考えられます。
このような場合は、マンションとしての冠水対策を行うことは難しいでしょう。ハザードマップ等に基づいて事前に避難所や冠水外地域への避難を開始すべきです。
このように、既存マンションの冠水対策は、現実問題として冠水高さ1m程度までと考えます。

②エントランス扉、電気室・ポンプ室等の扉の前等に「防水板」を設けて水の浸入を防ぐ

豪雨の際にマンションの建物内に水が入るのを防ぐために、管理組合で土嚢を作って積み上げる等の対応が行われています。しかし、土嚢は重量があり、多くの数が必要です。
土嚢を積み上げる主体者は、管理会社の管理員ではなく、マンション管理組合、マンション居住者になると思います。一般居住者が豪雨の中で土嚢を積み上げると、事故等につながるかもしれません。

防水板の普及

近年、容易に防水ができる着脱式の防水板が普及してきました。一般的な防水板は土嚢より設置が容易で、防水効果もあります。しかし、防止板自体が重くマンションでは扱いにくいかもしれません。
このような重い防水板は重要施設の防水対策として以前からありますが、マンションの防水板は居住者・管理組合が主体として設置することになるため、素人でも扱えることが重要です。設置が容易な軽量・簡易な防水板が求められます。

以下のように軽量、容易な仕様で、素人でも取り付けやすい防水板があります。

軽量防水板の例(1)

ポリカーボネート製で丈夫で軽量な大型防水板もあります。1枚が幅2m×高さ50cm、重さ11kg程度で、レールを取り付け落とし込むだけで、容易に固定ができます。
このような防水板を用いることで、マンション管理組合・マンション居住者であっても、より安全・確実に防水板の取り付けが可能です。

軽量防水板の例(2)

車路の入口等、幅の広い部分を防水するための防水シートがあります。この防水シートは、高さ1m×幅8mまで対応することができます。また、訓練は必要ですが、10分程度で設置することを可能としています。

シート式の防水板

素人でも扱える軽量で簡易な防水板は、水の勢いを減じて被害の拡大を少なくすることはできますが、水の浸入を完全に防ぐことは困難です。多少の漏水が生じることがありますが、建物設備に影響を与えない範囲です。

軽量防水板の止水性能

③電気室周り、床下部分の配管配線の貫通穴を止水材で塞ぎ、水の浸入を防ぐ

マンションの各住戸や機器には、配管や配線が設置されています。これらはマンションの壁や床のコンクリートを貫通しています。設備・電気配管配線の貫通穴は小さいものですが、隙間がしっかり埋められていないと、水が浸入する場合があります。実際に小さな穴からの漏水で電気室が冠水した事例があります。

配管・配線の貫通穴

ケーブルや配管の貫通穴をふさぐものとして、止水材があります。細い線が束になったケーブル等もあり、止水材料の選定には注意が必要です。

配管・配線廻りの止水材

④雨水排水管に逆流防止弁等を設けて、雨水等の水の逆流を防ぐ

2019年の台風19号では、超高層マンションの地下階に雨水が逆流して地下階が水没し、甚大な被害を生じました。外部の雨水レベルが上がり、それが建物内に逆流して冠水したことが原因でした。
このような事態を防ぐために、雨水排水配管に逆流防止弁を設けることにより、外部からの雨水流入を防ぐことができると考えられます。なお、上記の超高層マンションでは、止水弁を設けて緊急時に雨水の逆流を防ぐ対策をしました。

逆流防止弁の例

⑤敷地周囲を1m程度の擁壁で囲み、水の浸入を防ぐ

マンションの敷地境界線に1m程度の擁壁を立ち上げ、敷地全体を囲むことで水の浸入を防ぐ対策ができます。
マンションの出入口及び駐車場入口等は、防水板、防水シートで対処できますが、それ以外は建築基準法に抵触しない1m程度の擁壁を設置して防水します。

川の氾濫による冠水により、周辺の戸建て住宅は全て流されたが、家の周りに塀があり家の倒壊が免れた住宅